スタートアップのGrowthに大事な5つのこと

本稿は、「健康」を軸に様々な革新を起こしているニューヨーク発のスタートアップであるNoom でGrowthをやっていらっしゃるGiboさんによる寄稿です。原文はこちら

 

私は新卒で楽天で働き始めてからこれまで、セールス、マーケティング、事業開発畑でキャリアを積んできましたが、2016年からNoomというNYにあるスタートアップでGrowthの仕事をしています。Growthとは、USのスタートアップによく見られる(というか必ず存在する)チームで、事業の成長を加速させるための仮説検証を早いスピードで行なってサービスを改善していくことが仕事です。Growthhack はもともとウェブやアプリサービスの開発・改善に用いられる手法なので、ビジネスサイド出身の私としてはとてもためになる学びが多くあります。その中でも最も重要だと思った5つについて触れたいと思います。

 

1) Prioritize and Focus — 優先順位の決め方

サービスの成長に導く方法は何なのか、アイディアはたくさんあってもどれから手をつけるべきなのか。私も会社の受信ボックスには毎日のようにマーケティングツール開発会社や代理店、様々な企業から営業メールが届き、どの手法にも手を出したくなってしまいます。そんな中、USの多くのスタートアップのGrowthチームで用いられるのが、Growthhackers.com(グロースハックにまつわる掲示板)で知られるSean Ellisが提唱している ICE というフレームワークです。

 

目標、具体的な指標(獲得単価X%改善、コンバージョンX%改善、LTVの改善など…)に対しそれを達成するためのアイディアやテストの優先順位を決めます。ICEはそれぞれ、

 

I: Impact (プロジェクトの成功インパクト)

C: Confidence(成功する自信度合い)

E: Ease(実装の容易さ)例:実装準備にかかる日数など

 

という意味で、これら3つのポイントからスコアづけをします。とにかくクレイジーなアイディアも含めて皆でアイディアを出し合い、合計スコアの高いものから優先してテストしていくという手法です。私のこれまでの経験上、大抵トップにランクするアイディアはチーム内で同じようなものになることが多かったです。おそらく、しばらくチームで一緒にテストを回していくとwinning frameworkのようなものが確立され、「何をすれば一番効果的か」に対しての理解が一致してくるからだと思います。

 

ICE を用いることによる利点は、スコアリングをすることで本当に重要で(事業の成長にとって)意味のあるタスクだけにフォーカスすることができる点です。例えばパートナーシップなどスタートアップなら食いつきたいイイ話も、実装にかかる人的・開発リソースや 事業へのインパクトといった観点から判断ができ、Yes/Noの判断が容易になります。

 

2) Run experiments every week even small — どんなに小さくてもテストし続ける

If you’re not running experiments you’re probably not growing.— Sean Ellis

テストをしてないということは、おそらく成長もしていない。

 

Sean Ellis も言うように、常にテストをし続け新しい学びを得ることが重要で、規模の大小に関わらず毎週新しいテストをローンチします。そうすることで新たな学びを元にクリエイティブな仮説が生まれてきたりします。実際、Noomでも毎週いくつものテストをローンチしては、結果をチームでレビューしフィードバックを出し合い>それを元に新たな課題を発見し>そこから立てた仮説をICEでスコアリングして>新たな検証のテストローンチ、というサイクルを走らせています。

 

3) Statistical Significance — 統計的有意性

Growth においては統計的有意性を最重要視します。サンプル数が少ないうちは、A/BテストをしてたとえAが数値的には優位だったとしても実際にそれが統計的に意味のあるものなのか、すなわち decision-making に有益な結果なのかとは判断ができずとても苦労すると思います(新しいサービスの場合尚更)。もちろんA/Bテストをすれば必ず勝者と敗者があり、それによる学びはあるのですが、回を重ねた末結果が真逆にひっくり返ることも多々あります。

 

Noomでは、統計的有意性において、confidence(確信性)が90–95%程度ない場合には、テスト結果は”inconclusive(確定的ではない。結論を出せない)”とし、もう一度テストのセットアップに問題がないか等確認するなどしています。1) ただし、統計的優位性を判断するConfidenceの基準は企業によって異なる

 

ちなみに私は、統計的有意性を判断するためにA/B Statistical Significance (A/Bテスト信頼度判定ツール)をブックマークしていて、本当にお世話になっています…

 

4) Welcome crazy ideas — クレイジーなアイディアも歓迎する

事業のGrowthに導くなら、クレイジーでぶっ飛んだアイディアもとにかくリストに追加することが大事です。そして ICE でスコアリングしランキング化します。例えば、コンバージョンをあげるために赤字覚悟のgiveawayを配布したり(実際、Noomはオンラインサービスにも関わらず、サービスと同程度の価格で売られている高級体重計プレゼントしてコンバージョンがどれくらい上がるか、などテストしたことがあります)、広告クリエイティブに全然イケてない「エッ?なにそれ苦笑」というようなイメージを使ってみたり、というようなものです。全てはテストをしてみないとわからないので、とにかくキャップをはめずにアイディアを歓迎すること、それが短期間でX倍の成長を実現させるために重要なマインドセットなのだと思います。

 

5) Buy-in from management  — マネジメント陣からのサポート

最後に、これらのGrowthの成功にキーとなるのがマネジメント陣の合意・サポートがあるかどうかです。そもそも、「Growth =プロダクト開発・改善 × スピード」なので、プロダクトチームのリソースも一定量割くことになりますし、通常のdecision-makingにかかるプロセスや Stakeholderの合意を待っては何もテストができません。ある程度会社全体で Growth の活動自体や、それにかかる時間やリソースにも理解を示してもらう必要があります。だからこそ、Growthにマネジメント陣の厚いサポート体制があること、または Growthのゴール設定自体にマネジメントを介入させることが不可欠だと思います。

 

マネジメント陣が介入することで プロジェクトのdecision-makingに要する時間が一気にカットされ、よりクリエイティブかつアグレッシブなテストができます。NoomのGrowthの場合も、ファウンダー兼CTOがGrowthチームに深く介入し、通常ならばDesign Doc(プロジェクトの目的、内容、方法などについて記したドキュメント)を作成して複数のstakeholderの合意に数週間かかりそうな規模のプロジェクトも、その場で合意をとり、その週にはローンチという、驚くようなスピードでテストを実装することができるようになります。

 

ちなみに、先日上場したSnap IncのGrowthの秘訣は、超秘密主義な企業カルチャーだと言われています。SnapのCEO Evan Spiegelも、”Keeping secrets gives you space to change your mind, until you’re really sure that you’re right” — 「秘密主義にしておくことで、本当に正しいと確信を持てるまで、途中で気を変えても良いという心の余裕ができる 。」— と言っています。Snapのように社長自身が会社のGrowthを推し進めるためのカルチャーづくりに参画していることからも、マネジメント陣のGrowthへの介入がキーであることがわかります。

 

おわりに

Growthのストーリーや手法は企業のフェーズ、サイズによっても様々です。今回私が紹介させていただいたポイント5つは、ベーシックながらNoomも含めUSのスタートアップが日々活用しているフレームワークです。これから社内にGrowth チームをつくる、またはスタートアップとして 今後 Growth をさらに推し進めていく必要があるという方の参考になれば嬉しいです。

注釈   [ + ]

1. ただし、統計的優位性を判断するConfidenceの基準は企業によって異なる