本記事は、2017年12月7日に開催した「Growth Hack Talks #8」での発表内容を元にしたイベントレポートです。
カジュアルな出会いから結婚を前提としたお付き合いまで、群雄割拠のマッチングアプリ業界。華やかなアプリの裏側では、マッチングしてもらうためのアルゴリズム変更やUX改善、プッシュ通知施策などディレクター/エンジニア/マーケターたちによるグロースハックが日々行われています。
「yenta」のご担当者様に自社アプリのノウハウをお話していただきました。
登壇者紹介
株式会社アトラエ 岡利幸(おか・としゆき)氏
取締役
自己紹介と事業の紹介
株式会社アトラエで開発責任者を担当している岡と申します。本日はよろしくお願いいたします。

『yenta』はビジネスマン向けの出会い系アプリです。約8,000社の方々に使用されており、全ユーザーの93%がマッチングしています。サービスのリリースから現在までで、約80万件ものビジネスマン同士の出会いが生まれました。
実は第一回目の「Growth Hack Talks」にも登壇しており、その時はアプリのグロースハックについてお話ししました。(アプリのアクティブユーザー率80%!yentaのグロース事例 (前編)、アプリのアクティブユーザー率80%!yentaのグロース事例 (後編)) 本日は『yenta』がユーザーを熱狂させ、口コミを生むために取り組んでいることや『yenta』を通して成し遂げたいことについてお話します。
ユーザーを熱狂させ、口コミを生む
UX設計
私たちはUX設計のために3つのことを意識しています。
1.いい体験
まずは、非日常の“いい体験”をしてもらうこと。 一般的な日本のビジネスパーソンは、誰かが自分のビジネスプロフィールを見て「あなたの話を聞いてみたい」「面白いビジネスマンだね」と言われた経験がほとんどありません。
しかし、いちビジネスパーソンとして、他者からスキルや人間性に魅力を感じてもらったり興味を持ってもらうことは、嬉しいことですよね。
『yenta』ではそうした“いい体験”ができるような設計をしています。

2.習慣化
『yenta』はダラダラと長時間利用することがなく、利用時間の平均は1日3分ほど。毎日12時にレコメンドがくるので1〜2分でスワイプ。その後、20時に届くマッチング結果を確認するだけ。
メッセージをやり取りする場合は滞在時間が伸びますが、それでも5〜10分程度。毎日決まった12時と20時という時間と効率的で簡潔なやりとりが、習慣化への一つの仕組みになっています。

3.時間
12時と20時、この時間は昼食と夕食の時間帯だという方が多いのではないでしょうか。つまり、ランチタイムや夕食にあたり、社内の誰かと雑談を楽しんでいる時間でもあります。
まず、ランチタイムの12時にレコメンドがくることで「こんな人がいるんだ」という驚きとともに、その場にいる社内の誰かに共有したいと思わせる。次に、就業後の飲みの席や夕食の時間となる20時にマッチング結果が届くことで話題のきっかけにする。
利用者が自社内で『yenta』で実際に会った人の話をすると、面白そうだなと、他の社員も『yenta』に興味を持ってくれます。こうして社内の口コミから一気に拡散し、登録者が増える…というわけです。

私たちは“非日常×良き出会い”にフォーカスしています。 社外の人とランチをするのは非日常な体験になりますし、実際にランチをして話を聞いてみると思った以上に学びが多く、それがランチ後の話題になるという好循環が生まれます。
これが良質な口コミを呼び、自然とユーザーのアクティブ率をあげる秘訣です。
リアルでのUX設計
マッチングはしたけどまだ会っていないという人がいる。これが積み重なると会っていない人がどんどん増えていきます。
「yenta Engineer Night」というエンジニア向けのイベントを定期開催しているのですが、イベントページには右下に参加者が表示されるようになっていますので、ここを見るだけでもマッチングした人の出欠がわかるようになっているんです。
ですので、まだ会っていないけど会って話をしてみたいという理由で、イベントへの参加も促すことができます。仮に、まだ会っていない人が数名参加していた場合、一気に出会いを加速することができますよね。
人と人との出会いをつなぎ、関係を構築する。アプリ以外の場所でも積極的に出会うきっかけを作ることは、『yenta』の仕掛けの一つです。

コミュニティっぽい設計

人間社会には会社や趣味、学生時代の友人など、様々なコミュニティがあります。 ここで「なぜスナックは潰れないのか?成功するコミュニティ5つの要素」を一部引用しながら、各要素を色濃くするために私たちが行なっていることについてお話ししましょう。
1.余白
余白というのは、完璧すぎずちょっとした弱い部分や隙間を持っている、二枚目より三枚目のイメージ。ほっとけない、支えたくなると言った方がわかりやすいかもしれませんね。
リリース当初から『yenta』は4人チームという超少数精鋭で運営していますが、イベントなどを通してユーザーとも会う機会が多くあるため、この事実は広く知れ渡っていることです。
デザインやUI/UX設計以外に審査やユーザーサポートも全てこの4人で賄っているので、ユーザーには良い意味での不安感を与えているかもしれません。しかし、このことが、支援されている理由の一つなんじゃないかとも考えています。
2.常連客
常連客とは、コミュニティの中で何回も来てくれる人たちのことです。 毎年エヴァンジェリストを任命しているのですが、エヴァンジェリストが『yenta』を広めてくれたり、彼らのコミュニティからユーザーだけのミートアップなどのリアルイベントを弊社主催で開催しています。
そうすることで機能改善の要望やマッチング事例、マネタイズのアイデアをもらえますし、それを実現することでプロダクトの改善にも繋がります。

エヴァンジェリストに任命されていないコアなユーザーが、『yenta』繋がりのグループを作ったり、オフ会や朝活を開催するなど、自ら行動を起こしてくれる。そんなありがたい現象もこのサービスならではと言えるかもしれません。
3.仮想敵
仮想の敵がいるとコミュニティ感が増してくる。例えば、「このコミュニティはどこの国にも負けないぞ!」みたいな一体感というか。そうした仮想敵から課題意識が生まれるのですが、私たちは現在、ビジネスインフラの不在を課題意識として持っています。
例えば、人工知能に詳しい人を探そうとしても、全てがデータ化されているわけではないため日本中のどこにどんな技能を持った人がいるのかわかりませんよね。そこを解決するために、私たちは『yenta』を通してビジネスインフラを作らなくてはならないという意識がある。
これはユーザーにも共有している考え方です。このように仮想敵や課題意識などの共通の認識をユーザー私たちは持っています。
4.共通言語
学校や友達同士、仲間内だけで流行った言葉ってありますよね。それをイメージしてください。 「yentaランチ」「yenta会」「yenta経由」という言葉をユーザーが使っていますが、この共通語によって仲間意識が生まれているのかもしれません。
5.共通ベクトルや目的
共通ベクトルや目的というのは、コミュニティの存在意義をみんなで共有しましょうという意味です。 よく、ユーザーからマッチングしたら会わないといけないのかと質問をいただきます。当然、大きな収穫を得られるので会うことをオススメしたいところですが、各々タイミングもありますし、必ずしもすぐに会う必要はないとも思っています。

『yenta』は、欲しい知性やノウハウにいつでもアクセスできる「弱い繋がり」を構築するためのプラットフォームとして利用していただければいいなと思っています。
『yenta』の目指す世界
Googleは世界の情報を整理して集約し、世界中の人々がアクセスできる世界を作ってくれました。これに対して『yenta』は、世界中の人々が持つ知性を繋げ、世界中の人々がアクセスできるようにするということをビジョンとして掲げています。
情報だけでは解決できないことがこれから確実に増えていく。しかし、それは知性や人の脳の奥に眠っている思想や思考など、言葉にしづらいものをディスカッションできる状態を作ることで解決できるのではないでしょうか。私たちはその土台となるプラットフォームを作っていきたいと思っています。

私たち一人ひとりの力で日本中にある知性を繋ぎ合わせ、社内外で新しいイノベーションや新しいエネルギーみたいなものを作り出していきたい。それをユーザーに伝え、広めてもらうことがコミュニティの意義です。

『yenta』のユーザーはもともとスタートアップ界隈の人たちやアーリーアダプターの方が多かったのですが、最近では国家公務員や政治家、有名人など多様な職業の方が増え、私たちが想像もしていなかった出会いやプロジェクトが次々と生まれています。さらにはこの出会いで起業する人や出資が決まる人などもいます。 こうした一つの出会いがイノベーションにつながり、日本を面白くしていくことでしょう。
まとめ
隙間だらけのチームが大きなビジョンを語り、ユーザーと密接に関わりながら、一緒にプロダクトを作り、アプリで人生を変えるような出会いを体験してもらう。 この流れを意識することがユーザーを熱狂させ、口コミを生むしくみができる鍵となっているのかもしれません。本日はご清聴ありがとうございました。