本記事は、2017年7月18日に開催した「アプリの虎 Vol.1」での発表内容を元にしたイベントレポートです。アプリに積極的に投資している企業がどのような考えでアプリに投資しているのか、開発体制はどうなっているのか、マーケティング活動全体のアプリの役割などをテーマにオンラインショッピングができ、実店舗ではハウスカード会員証として利用できるアプリ「UNITED ARROWS LTD. 公式アプリ」のご担当者様に自社アプリのノウハウをお話していただきました。

登壇者紹介

株式会社ユナイテッドアローズ 安藤彩子(あんどう・あやこ)氏

事業支援本部 デジタルマーケティング部

デジタルコミュニケーションチーム リーダー

大学卒業後は化粧品メーカーを経て、2003年に外資系下着メーカーに入社しSPA事業にて店舗運営・販売促進室・CRM(顧客関係管理)を担当。ここでCRMシステムのリプレイス及びサービス刷新を実施したところ、グローバル社内表彰“Customer Orientation”部門にて優秀賞を受賞、産業技術総合研究所との共同開発にも参画。2013年に株式会社ユナイテッドアローズに入社。

自己紹介と事業の紹介

株式会社ユナイテッドアローズ(以下、ユナイテッドアローズ)の安藤彩子です。宜しくお願い致します。前職は下着メーカーに所属し、マーケティングのキャリアとしては10年弱ほどCRM中心に取り組んできました。

4年前、ユナイテッドアローズに入社してからはCRMを担当しており、顧客分析を含む顧客ロイヤルティ向上の戦略・戦術プランニングをメイン業務にしています。入社したタイミングでCRMシステムのリプレイスとポイントカードのサービス刷新に携わり、一年ほど前には、別々だったリアル店舗のハウスカードサービスとオンラインストアの会員サービスを統合いたしました。

弊社の事業内容は18のストアブランドを展開するセレクトショップです。その中でデジタルマーケティング部は、オンラインストアとEC周りのオウンドメディアを運用しているデジタルコマースチーム、会員様を中心としたお客様とのコミュニケーションをプラン・実行するデジタルコミュニケーションチーム、デジタルマーケティング領域のデータ活用とそのためのデータマネジメントを行うアナリティクスチームという3つのチームが担っております。

私たちは統合型マーケティングコミュニケーションを推進し、18のストアブランドをブランドやリアル店舗・アウトレット・オンラインストアといったチャネルごとに分断するのではなく、お客様にとって一元化・最適化されたマーケティングを行なっています。

当初は二つ存在したアプリ

現在、UNITED ARROWS LTD.公式アプリを運営しております。

2016年の8月にリアル店舗のハウスカードサービス(ハウスカードアプリ)とオンラインストアサービス(オンラインストアアプリ)を統合しましたが、それまでは二つに分かれていました。

2012年にリリースしたハウスカードアプリは、①より多くの方にユナイテッドアローズについて知ってもらい、利用機会の促進を図るとともにアプリマーケットに進出して新規のお客様を獲得する。②会員メリットを増強し、長くご愛顧いただける環境を作る。以上、2点の目的を元に開発されたものでした。

2014年にリリースしたオンラインストアアプリは、リアル店舗への送客を主な目的にしていました。オンラインストアアプリは情報提供の場として、そして購買行動を起こすきっかけ作りとして、よりリアル店舗でのお買い物を楽しんでいただけるように開発されたものになります。

その後、購買前後の情報やサービス提供をすることでカスタマーエクスペリエンスの向上、つまりお客様の買い物の体験価値をあげたいと思い、この二つのアプリを統合するに至ったのです。

アプリの統合前後でわかったコト

現在運営しているアプリは「パーソナライズ/カスタマイズと利便性の追求」をコンセプトとしています。二つのアプリを統合するのが決まったとき、オンラインストアの担当者には、オンラインストアとして研ぎ澄ましたアプリを作り、そこで売上を上げていきたいという思いがあります。一方、CRMでは、お客様との絆の構築や店舗以外の接点、“タッチポイント”の一つとして醸成させていきたいという思いがありましたが、まずはオンラインストアとしてアプリの開発に着手しました。そこに、マイページや会員証などの会員様向け機能とコミュニケーション手段としてのプッシュ通知やアプリ内メッセージの機能をアプリ内に用意しました。

アプリの統合前後でどう変わったかといいますと、グラフ内の実線部分が今年度、点線部分が前年度で比較したところ、インストール数で306%、アクティブユーザー数は370%に増加しています。

※点線部分の前年度実績は会員様アプリとオンラインストアアプリの両方を足したもの。

オンラインストアの受注実績においてはアプリ経由の受注は前年比120%、オンラインストアに占めるアプリによる売上シェアは前年比250%に伸長しました。

しかし、リリース後の様子を見ていると、アプリのインストールは増えているものの、その後のリテンションが期待通りではないことが見えてきました。

リリースによって直面した「課題」

ハウスカード会員に新規登録していただく際にアプリからの登録をご案内していますので、リアル店舗でお買い物いただいた上で会員になってくださるお客様は、その場でインストールをしてくださいます。しかし、その後にアプリを継続利用いただくきっかけを提供できていなかったのです。

一体、私たちはなんのためにアプリを作っているのか——。

そこでもう一度アプリの目的の整理を行い、現在着地しているのが今回のテーマ、アプリを通して「カスタマーエクスぺリエンスの向上」に取り組むということです。

本来であれば開発前に目的をもっとしっかり定めるべきだったのだと思います。

これからアプリの開発を考えている方は、「アプリを使って自分達は何を達成するのか」ゴールを明確化して開発着手されることをお薦めします。

アプリはコミュニケーションチャネルの一つになる

いま、アプリがコミュニケーションチャネルの一つとして存在が大きくなっている中で感じていることについてお話しさせていただきます。

誰もがスマートフォンを持つ時代になり、使用時間のうちおよそ8割がアプリ利用のために割かれていると言われています。

なぜアプリに取り組むべきなのか。アプリならではのメリットやウェブとの違いとは何か。それは、アプリの特徴はスピード感があり煩雑でないこと、シンプルであること、プッシュ通知で気づきを与えることではないかと思っています。今は、マーケティングの手段として使わないという選択肢がなくなっている、そんな時代になっているのではないでしょうか。

先ほどUNITED ARROWS LTD.アプリはパーソナライズとカスタマイズがコンセプトであるとお話ししました。パーソナライズとカスタマイズはよく同じように捉えられることがありますが、きちんと提言をすると違うものです。

パーソナライズはユーザーの好みに合ったコンテンツや機能を「ユーザーに作業させることなく提供する」こと。カスタマイズとは「ユーザー自身がレイアウトや機能を変更する」ことでユーザーが求めるものに近づけること。

特にアプリに関しては、この違いで大きく結果が左右されるのではないかと思っています。

カスタマイズとパーソナライズはバランスが大事

「built your own」——この言葉を聞いたことはありませんか?

最近、自分で好きなようにカスタマイズしたハンバーガーを作って食事できるお店がありますが、カスタマーエクスぺリエンスとしてはとても良いサービスと言えるのではないでしょうか。自分で作ったものは世界に一つだけのものですし、「私だけのもの」という思いが強くなるので非常に価値があるものになります。しかし、何でもカスタマイズすれば価値があがるかというと、そういうことではありません。

特にアプリは煩雑であってはなりませんので、どの機能をパーソナライズしてもらうか、どの機能をカスタマイズしてもらうかをきちんと整理する必要があると考えております。

そのためには何をしなくてはならないのでしょうか。

弊社の場合はReproを導入し、現状を把握しながら顧客様のニーズを理解することに注力しています。例えば、リテンションの分析。こちらは会員証のページを見た人が、その後のリテンションをしている割合を描いているもので、横は日数を表しています。例えば、上部一番上の6月29日に会員証を使った人は14日後に何%リテンションしているかが分かるようになっています。

下部は「お気に入り」の機能を使った人はどれぐらいリテンションしているか。これだけ見ても利用する機能によって翌日以降のリテンションが違うことがわかります。同じ機能を使っていても使っている頻度やボリュームによって翌日以降のリテンションに違いが出てくるんです。

このように現状把握をしていると、ある程度の仮説が見えてきます。

サポートがないから使いづらいのではないか、もっとこういう情報がお客様に伝えられたらお使いいただけるのではないか−—。このように、現状把握をしながらプランニングし、アプリ内メッセージやプッシュ通知の施策を行っています。

結果はRepro上ですぐわかるため、実際に仮説は正しかったか、実行した施策の効果はあったかを把握することができます。私たちはお客様がどのようにアプリをお使いなのか、どのようなニーズがあるかを把握するために分析していますが、これはお客様を理解したいという思いが強いためです。

アプリを開発するにあたり大事な三カ条!

1.アプリで何を達成するのかを明確にする。

目的を明確にして、その目的に向かい、戦略や戦術を整理、社内コンセンサスを取り外部の関係者にも共有・理解を促すことがスタートラインです。

2.誰が何をやるのか、役割を明確にすること。

目的・戦略・戦術の整理をしたら、誰が何を担当するのかを明確にする。開発中は短期間で決定し進行することが多くありますので、スムーズな進行のために重要です。

3.リリース後、放置をしない。

アプリは、一回使わなくなると、再び利用されるまでのハードルは高くなります。スムーズに目的を達成するためにも、早く現状を把握し、速やかにPDCAを回して手を打っていくということが大事です。

お客様の期待にお応えするだけでは価値がなかなか上がりません。カスタマーエクスペリエンスの向上を達成するには、お客様に期待以上のものを提供していく必要があります。そのために、お客様理解の精度をあげなくてはならず、その意味でデータ活用は非常に重要です。アプリのデータを回収してマーケティングに生かしていくことも、今後は取り組みとして必須になるのではないでしょうか。

アプリの開発をする際は、リリース後のデータ活用も念頭において、そのデータをいかに有効活用するか考えることも大切だと言えそうです。

まとめ

弊社の社是は「店はお客様のためにある」

お客さまに喜んでいただくことこそが、ユナイテッドアローズの根幹となる考えであり、私たちの基本姿勢となります。

ですので、私が今回最も伝えたかったのは、アプリは自分たちがやりたいことを実現するためのものではなく、お客様(ユーザー)のためにあるということです。お客様が求めるものを見極めることが大事だと思っています。マーケティングはついつい特定の方向に偏ってしまったり、企業がやりたいことをお客様に押し付けてしまうという側面を持ち合わせていますが、お客様のためにご用意した“タッチポイント”となるように、今後もアップデートをかけていきたいです。ありがとうございました。