はじめに

日本のペットビジネスは医療や保険などのサービス、フード類、ペット関連用品に大きく分けられ、その市場規模はなんと1兆5000万円にまで伸びています(2018年5月現在)。一方、今まではITをはじめとするテクノロジーを強みにした新規参入企業が現われていませんでした。

2014年、新風を巻き起こすがごとく現れたのが株式会社PECOです。同社はペット専門メディア『PECO』を筆頭にサブスクリプションコマース『PECO BOX』などペットに関する様々なサービスを手掛けています。

今回は株式会社PECOでプロダクトマネージャーを担当している清水さんに『PECO』の成長の秘訣から組織戦略、目指すビジョンまでたっぷりとお話いただきました。

識者プロフィール

株式会社PECO プロダクトマネージャー 清水悠司(しみず・ゆうじ)氏

2017年1月に株式会社PECOに中途入社し、プロダクトマネージャーとしてメディア事業の統括、動画事業の立ち上げ、アプリのディレクション、マーケティングとコアビジネスの急成長に貢献。現在は中国事業の責任者を務める。

メディア急成長の秘訣は、動画メディアへのピボット

『PECO』は月間再生回数2億回以上を誇る、国内最大のペット動画メディア。多くのインフルエンサーと提携し、動画を独自に編集・配信しています。

分散型記事メディアからの発進でしたが、動画メディアやアプリが流行ってきたこと、また記事よりも動画で見せた方がペットの可愛さがより伝わることから動画中心、アプリ中心のメディアにピボットすべきだと考えました。ところが、社内では記事メディアとして高い実績があり、そもそも動画にしたところでどれだけの効果が見込めるかわからないという意見もあって、スムーズに話が進みませんでした。アプリに関しても、当時はアプリを持たず分散型メディアとして成功している企業も多かったためかなり疑問視されていました。

それでも、動画の可能性をなんとかして伝えようと、まずは小さなチームを作って検証を開始しました。社内には動画編集ができる社員がいなかったので、動画編集は私自身が独学で学び編集の仕組みを整えました。当時、アプリの開発はエンジニア1人で担当し、ミニマムな状態でリリース。1人当たりの動画視聴数など、数字に裏付けされた実績を見せながら説得を続け、動画中心、アプリ中心のメディアへとピボットしていきました。

『PECO』の組織体制とマネタイズ

(2018年5月現在)組織全体で140人ほどいますが、そのうち約半分がメディアの運営に携わっています。マーケティングチームは新規ユーザーの獲得と継続させる仕組み作りを担い、そのほか、ユーザーとコミュニケーションを取って動画の調達をするチーム、動画の編集と配信をするチーム、他にもエンジニアや広告営業と広告運用のチーム、各チーム10〜20人で構成されています。

マネタイズの中心は広告です。主な広告主はペットの飼い主にリーチしたいペット関連事業社です。「ペットを飼うことができる=ある程度生活に余裕がある人たち」をターゲットにしたい企業も多いので、上手くマネタイズできています。

メディア以外にも、愛犬愛猫に合わせてグッズやおやつをお届けする「PECO BOX」やオーダーメイドで愛犬愛猫に似たぬいぐるみを作れる「PECO HUG」などペットにまつわる関連サービスを色々展開しています。しかし、個別で立ち上げたサービスなので会員情報の連携をはじめとしたデータの連携がまだできていません。今後はアプリ内でアカウントを連携できるようにし、動画コマースで商品の良さをうまく伝えられるような仕組みづくりも視野にあります。

最短最速でアプリを成長させた、6つの施策

『PECO』は2014年にwebメディアからスタートし、2017年にアプリがリリースされました。 私たちがアプリのグロースでフォーカスしたのは良質なユーザーの獲得と、良質なコンテンツの調達と編集、そしてアプリ内での視聴体験の向上でした。そうして少しずつ、着実にアプリを成長させていきました。その際に行ったのは、次のような施策です。

1.ユーザー獲得には動画広告が有効

どのプラットフォームも動画広告が有効でしたが、一番効果的だったのはGoogleのUAC(ユニバーサル・アプリ・キャンペーン)です。FacebookとInstagramは競合が多く、私たちが目標とするCPIではなかなかユーザーを獲得できませんでした。この2つのプラットフォームは日々大量のペットコンテンツが流れているので、『PECO』をDLする必要性を感じてもらえなかったかもしれないと推測しています。

広告は代理店を一切利用せず、社内にいる専任の担当者がひたすらA/Bテストを回しています。担当者自身が動画のクリエイティブを編集できるように勉強してもらっているので、その分スピーディーにPDCAを回すことができます。

2.SNSを活用したコミュニティ作り

多くの飼い主は、ペットを自分の子どものように大事にしているので「“うちのコ”が一番」だと考え、周りのみんなに自慢したがるものです。そのため『PECO』に自分のペットが載れば知人や親戚など、周りの人に伝えてくれます。それが今まで『PECO』を知らなかった人たちとも接点を作れる、絶好の機会となります。

そうした考えをもとに、Instagramでは“コミュニティを作る”という、他のSNSとは異なる目的で運用をしています。日々、Instagram内で「#ペコねこ部」「#pecoいぬ部」というハッシュタグがついた画像をスタッフが見ていて、『PECO』の世界観とマッチする素晴らしい写真は公式アカウントでご紹介しています。多くの方が“うちのコ”を取り上げてもらおうと参加されています。

ペット動画は制作せずに調達するという点で他の市場と異なっていると考えています。そのためペット界のインフルエンサーをはじめとする飼い主の皆さまに『PECO』のファンになってもらうことが非常に重要です。飼い主様とはコミュニケーションによる良質な関係構築を大事にしており、『PECO』に紹介させていただくだけでなく、新宿伊勢丹や渋谷ヒカリエなどとコラボしたリアルイベント実施の際にもご協力いただきました。『PECO』に関わる飼い主の皆さんに「うちのコがあの渋谷ヒカリエのディスプレイに!」といった具合に喜んでいただける機会を提供しています。

4.アプリ特有の反応がある

アプリリリース以前は、ペット動画への反応が好意的なFacebookでの掲載を目的としたコンテンツを調達していました。それから数ヵ月がたち、アプリが軌道に乗ってきた頃合いをみてアプリ中心のコンテンツ最適化へとチェンジ。再生数に対する「いいね」などのKPIも、アプリをメインに追うようになりました。

運営をする中でFacebookは「いいね」を押したコンテンツが周りの友人に見えるため人目を気にしてリアクションをする方が多いように感じましたが、アプリはプライベート空間なので自分が良いと思ったものに素直に「いいね」をしてくれます。SNSごとにユーザー行動の傾向や差異を感じましたね。

5.面を取りに行く

LINEやSmartNews、Gunosyなどの媒体でも、『PECO』のコンテンツを配信しています。飼い主にアプローチするにはまずサービスの認知を拡大することが最適な戦略だと思っていますので、ここを上手く利用して認知からDLに繋げるという流れはできています。

6.無駄を削ぎ落として高速でPDCAを回す

高速でPDCAを回すためには、できる限り無駄を削ぎ落としたミニマムな状態でアプリをリリース・アップデートします。作り込みすぎると工数もかかるしスピードが落ちてしまう。なのでもうちょっと作り込みたいという気持ちが残っていても仮説検証に必要なミニマムな状態まで思いきって削ぎ落とすことが大事だったりします。そうすることで、たった3週間で中国向けの『PECO』アプリを、4週間で国内向けのアプリの新機能「うちのコアルバム」をリリースしてきました。

仮説検証するために必要な機能のみにフォーカスして、リリースしましょう。そしてリリースした後、結果を見て機能の継続や改善の方法を考えます。

プロダクト・マーケット・フィットはアプリの特性に合わせて判断する

多くのアプリ事業者がプロダクト・マーケット・フィットの判断について悩んでいるというお話だったので、参考までに『PECO』の事例を紹介します。

もともと記事のメディアとして立ち上がった当初からある一定の数字を持っていたので、すでにマーケットがあることは私たちも理解していました。そこから動画メインにシフトしただけなので市場調査やユーザーインタビューなど実施しなくとも、マーケットにフィットすることが明らかだったんですね。

一方、最近アプリ独自の機能として、自分のペットの写真をフォルダから集めてまとめられる「うちのコアルバム」を設けました。この機能は新しい試みでしたので、自らユーザーインタビューや社内インタビュー、アンケートを実施した上でユーザーの課題に対する認識を深めていきました。正確に言うと、そもそもアルバム機能は仮説の1つで、ユーザーがどんな課題を持っているかの調査をしました。その中で「端末にあるうちのコの写真が他の写真と混ざっていて、うちのコだけを簡単に見ることができない」という課題が明確になりました。それは類似サービスにあるような「写真のバックアップを取りたい」「家族に共有したい」というものとは明確に違いました。課題が見えた後、プロトタイプの開発をして、短期で本実装しました。利用率の高さからまだ改善点が見えるので検証途中ではありますが、新しい挑戦をするときはユーザーの課題やニーズを知るために事前の検証を大事にしています。

また、プロダクト・マーケット・フィットを判断する上で何を指標として、どの程度の数値を基準とすればよいのかという疑問がありますが、目標はアプリの特性に合わせて設定するべきではないかと思います。『PECO』の場合、ニュースアプリのように毎日使うものではないのでニュースアプリと同じ頻度でユーザーに使われないといけないというものではありません。実際に『PECO』のユーザー行動を分析すると、1dayで戻ってこなくても2、3日後に再訪してくれるユーザーが多くいますし、離脱も決して多くないことがわかりました。大事なことは自分のアプリの特性を理解し、どれくらいの利用頻度、どれくらいの利用時間で使われるべきかを考え、プロダクト・マーケット・フィットの基準とするとよいと思います。

「うちのコアルバム」の場合、ユーザーインタビューからペットの写真は週1、2回程度しか撮らないことがわかったので、「うちのコアルバム」を毎日使ってもらうという目標ではなく、週に1回利用してもらうという目標にしました。大きな目標を掲げることも大事ですが、あくまでもアプリの特性に合わせて考えるべきでしょう。単純に数字で判断するのではなく、その機能の理想的な使い方を突き詰めて判断基準を作ってください。

動画機能に関しても、1回当たりの滞在時間は改善を続けることで大きく伸ばすことができました。1日のログイン回数などユーザーの生活パターンを大きく変えることはできませんが、滞在時間の長さは努力次第で変えることができたのです。

「PECO」の組織戦略とは

コアバリューを作り、浸透させる

プロダクトマネージャーの仕事はビジョンを作り、アプリのコアバリューを定めること。そのためのTO DOリストを作成して優先順位をつけ、ビジョンに沿った戦略を進めていくことです。私は入社してすぐにこれに取り掛かり、「3分で癒しをチャージ」という、わかりやすく、かつ何を大事にしているかがわかるコアバリューを定め、社内に浸透させました。

コアバリューは世の中で流行っているものなどを多角的に分析して作っていきます。例えば、「世の中には多くの動画サービスがあるが、どういう手段で差別化を図るか」「スマホの利用から隙間時間に楽しめるものがいいのではないか」「ペット動画はどんな特性があるか」など考えながら、形に落とし込んでいきます。そこで大事なことは腹落ちするまで徹底的に考え、形にすること。コアバリューは判断軸になるものなので、しっかりと定め、ブレないようにします。ただ間違っていた、市場が変わったなどがあれば修正は必要です。

実際に私が「PECO」に入社した当時、社内には特にメディア事業としてのコアバリューもなく、判断軸がありませんでした。そしてエンジニアやコンテンツのチームは独立して存在していて、全体が1つのチームとして構成されておらず、皆で1つのプロダクトを作っているという意識がなかったんですね。

コアバリューを定めてしっかりとした判断軸を作ればプロダクトの質が変わってくるので、「みんなで『PECO』を作っているぞ!」という共通意識を持つために「プロダクトチーム」という名称を掲げました。そしてコアバリューを定めた後、それを実現していくために今度は細かい施策を考え実行していきました。

コアバリューを浸透させるための施策

毎月のMTGでコアバリューを伝え続ける

月に1回、プロダクトチーム全員でMTGを行い、自分たちは何のために、また今何をやっているのかを話し合うようにしました。このMTGでは、毎回コアバリューを伝え、コアバリューの定着も図っています。

全員でKPIを追える仕組みを作る

また、Slackで数字報告のチャンネルを作り、各施策での数字の変化を常に報告したり、ダッシュボードで見える化して、“みんながKPIを追う”意識を持つようにしました。

振り返りとドキュメンテーションを徹底する

全チームに振り返りの文化を作り、お互い褒め合ったり、フィードバックをするようにしました。他にもナレッジシェアリングやナレッジの蓄積のためにドキュメント化を徹底しました。「Repro」ツールの操作マニュアルや施策の結果などもドキュメント化し共有しています。

さらに組織をスケールさせるために

今後ますます会社の規模が大きくなるにつれて、さらに大切になっていくのは文化の浸透とミドルマネージャーの育成です。組織がどんなに巨大化しても、「PECO」の価値観やナレッジシェアリングなどの文化は必ず一人ひとりに浸透させていかなくてはなりません。そこをスケールさせるのがミドルマネージャーの役目だと思っていますので、しっかり育成をしていきたいですね。

『PECO』が描く未来図―グローバルで愛されるペットカンパニーへ

ペット市場が急速な成長を遂げているアジア地域では今後さらなる大波が来るはずですので、『PECO』も確実に乗るつもりです。特に中国は中間所得層が増えていることを理由に破竹の勢いで伸びており、数年後には日本とアメリカを抜いて世界最大のペット市場になるといわれています。中国でも動画ブームが来ていることも、今がチャンスを掴む絶好のタイミングだといえるかもしれません。

日本では『PECO』をアプリ、SNS、他各種媒体で展開していますが、中国も同様の戦略で攻めています。日本と少し違うのは、中国はメディアとECの機能連携が発達しているためEC事業の成長が早く見込めるかもしれないこと。また、アプリ一つで多くのサービスを完結できる仕組みが一般化しているので、私たちもペットに関するサービスを1アプリに集約できるよう、改善していく必要があります。国によってトレンドや仕組みが違いますので、きちんとキャッチしてローカライズさせることも大事ですね。

Instagramがグローバル展開できた理由は「写真は言語の壁を越えられる」ことにあると思っています。同じく、『PECO』もペットという言語の壁を超えたコンテンツなので、グローバル化の難易度は決して高くないはずだと思っています。目先の目標は日本での成功体験をもとに、中国でNo.1ペット動画メディアになることです。中国市場を獲得するためには、日本と同じくまずは迅速かつより多くの面を獲得していかなくてはなりません。すでに社内で多くの中国人を採用して、アプリ、SNS、サードパーティそれぞれで垂直立ち上げを進めています。

そして、将来的にはしつけ方から餌の選定、病気など、飼い主が抱えている様々な問題を一つひとつ解決し、ペットのゆりかごから墓場までをサポートするグローバルなリーディングカンパニーになりたいですね。

(関連記事:「ペット動画PECOのグロースハック成功失敗事例集」)

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