事業をグロースさせてきた先駆者(Pathfinder)を取材する連載企画「Pluto pathfinder’s story」。

今回は、ブラウザアプリ『Smooz』を運用するアスツール株式会社(以後アスツール)。2016年3月に創業し、9月にSmoozをリリースすると多くの支持を集め、「App Store Best of 2016」を獲得。

競合が大きなシェアを獲得していたブラウザ市場に新規参入し、わずか3年でユーザー獲得、継続率、課金といった数字を改善し成長を続けている。

ユーザーファーストを掲げマーケティングツールの最大化、最適化を徹底する先駆者、アスツール代表の加藤雄一氏にお話を伺った。

※本記事に記載したアスツール、Smoozに関するデータ等はすべて2019年8月7日取材時点のものです

プロフィール

加藤 雄一(yuichi kato)/代表取締役社長

高校時代にパソコンの自作やモバイル機器いじりに没頭した経験から、モバイル事業に興味を持つ。新卒でソニー株式会社、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(旧ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ)、楽天株式会社でのPM(プロダクトマネージャー)を経て、2016年3月にアスツール株式会社を起業。同年9月にSmoozをリリースし、120万ダウンロードのアプリへとグロースさせている。

Twitter: https://twitter.com/sassymanyuichi

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Smoozはマネタイズに注力するフェーズへ

ーSmoozというサービスの説明をお願いします

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加藤:スマートフォンを使ったブラウジングの効率性を極限に突き詰めたブラウザアプリです。全ての操作を片手のジェスチャー操作で行えるようにしており、たとえば、横にスワイプするとタブが切り替えられたり、スマホの画面上でL字の軌跡を描くだけで好きな機能を起動したり、好きなページを開いたりできます。

2つ目のバリューは、高いカスタマイズ性で、ユーザー個人個人の使い方に合わせて細かく設定をすることができます。検索ツールは毎日使うツールなので、自分の好きなように使いたいというユーザーのニーズを汲み取って運営しています。

ー現在のユーザー数はどれくらいですか

加藤:現在はDL数で言うと約120万DLですね。上場企業等が公開しているアプリのアクティブ率(MAU/DL比率)と比較すると、Smoozのアクティブ率は高い水準にあるとと思っています。MAUは年間3倍くらいに成長しています。過去1年でマネタイズに力を入れはじめたので、売上は前年比20倍くらいに成長しています。最初が小さかったので、倍率で言うと大きいですね(笑)

Smoozのマーケティングは、リテンションマーケティングに等しい

ーSmoozのマーケティングについて教えてください

加藤:Smoozではマーケティング≒リテンションマーケティングですね。新規顧客獲得にお金をかけたマーケティングはほとんど実施しておらず、オーガニックで入ったユーザーをいかにアクティブユーザーに転換できるかを常に考えて施策を回しています。

AARRRモデル(新規ユーザー獲得から収益化までを体型化したフレームワーク)で言うと「アクティベーション(利用開始)」と「リテンション(継続)」を特に重視しており、最初にユーザーにサービスの利用価値をしっかり理解してもらうこと、そしてその後長く使い続けてもらうために何をするべきかを考え続けています。

課金の仕掛けももちろん大事ですが、その前段階がしっかりできていないとファネルが広がらず結果的に売上も上がらないので。

ーツール活用にかなりのこだわりがあると聞く加藤さんですが、リテンションマーケティングを具体的にどのようなツールを用いておこなっているのかのアーキテクチャを教えてください。

smooz 

加藤:SmoozではAquisition(顧客獲得)、Activation(利用開始)、Retention(継続)の各プロセスごとにツールを使い分けています。まずAquisitionについてですがASOに注力しており、Google AdsのABテストで効果的なワーディングを発見し、Apple Search AdsとAppsFlyerを組み合わせてキーワードごとのリテンション率を見ながら効果的なキーワードを見つけるようにしています。

そうして取得したデータをもとに、App Store ConnectやGoogle Playのメタデータを設定することによって、闇雲じゃない科学的なグロースハックができます。

アクティベーションとオンボーディング、ユーザーセグメントごとの機能利用促進はReproのプッシュ通知・アプリ内メッセージでおこなっています。
(Smooz加藤さんの具体的なReproを用いた改善方法についてはこちら

A/Bテストは、Firebaseを使っており、テストの際はできるだけデータが被らないように、細かくセグメントを切って実施するようにしています。

また、リテンションは各施策の中でも最重要視していて、Helpshiftを用いてチャットを通じてユーザーさんから直接ヒアリングを行うことでユーザーボイスをかき集め、Asanaで要件管理をしています。またその内容は全てSlackに自動で流し、全社員がリアルタイムで見られるようにしています。

基本的には全てのデータはBigQueryに貯めており、チームメンバーがいつでも必要なデータを取り出せるようにしています。また、よく参照するデータについてはGoogleデータポータルで可視化していくようにしています。

ーかなり綿密なツールアーキテクチャですね。今後の課金をさらに高めていくフェーズでは、どんなマーケティング領域に注力していきますか。

smooz

加藤:一番効くリテンション領域に力を入れていきたいですね。やはり、継続的に使ってくれるユーザーほど課金率が高くなるので。データは色々と複雑化にみてしまいがちですが、結局は「アプリの価値を上げること」が一番重要だと思います。

プロダクトの価値を上げていくと、リテンションもアクティベーションもユーザーの課金も上がっていきますから。

ユーザーとのタッチポイント作りと社内共有を徹底

ーSmoozはTwitterやリリースノートなど、ユーザーとのタッチポイントが豊富ですよね。

加藤:現在、ユーザーとの主なタッチポイントとして、レビュー、問い合わせ、リリースノート、Twitterがあり、それぞれに異なる目的で運用しています。

Twitter運用は効果の可視化が難しいかと思うんですけど、ユーザーとの接点を多くし、潜在ニーズや表面化しづらい問題を汲み上げるといった目的で使用しています。たとえば「運営にわざわざ連絡するほどじゃないけど、なんか違和感があるのでTwitterで呟いてみた」といった形で、問い合わせとは毛色の違った意見が出てくるので、「突然連絡してすみません。その違和感ってなんですか?」と公式アカウントからリプライを送って問題の深堀りをしたりしています。

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問い合わせについては、実際にサービスを使う中で明確な問題があって連絡してくれるものなので、コミュニケーションの質をすごく大切にしています。通常の会社では、カスタマーサポートでは、なるべく効率的に問い合わせをクローズさせることに注力していると思いますが、Smoozではユーザーの要望を深堀りし、いかに深いインサイトを得ることができるかという目的意識で取り組んでいます。そういう意味ではユーザーインタビューに近い位置づけです。

CSはリモートのスタッフが中心になって行っているのですが最初の頃は「そんなにすぐ話を終わらせないでください」って何度も言って、CSアクティビティの目的や意義を何度も説く必要があり、かなり苦労しました(笑)

たとえば、ユーザーは「この機能や設定項目を追加してください」とソリューションだけを要求することがあります。ソリューションについては、ユーザーよりも僕らのほうが上手く考えられるかもしれないので、根本の問題は何なのかというところがとても重要です。

なので、機能要求は一旦置いておいて「どんな問題が起きていますか」「なぜそのような機能を要望をしてきたんですか」といった背景を必ず確認してもらっています。

このようにタッチポイントごとに違った情報が得られるので、これらの情報を集約して、サービス設計やロードマップ策定に活用しています。

ーユーザーへ積極的に情報を取りに行っているのですね。様々なツールを使われていますが、マーケティングの業務はどういった体制・リソースで実行から分析をされているのですか。

加藤:Smoozでは僕がPM(プロダクト管理)とマーケティングを担当しています。あらゆる情報をオープンにして、PMしか知らない情報が存在するという状態を避ける仕組みにしています。

とくにユーザーの情報はSlackでメンバー全員に届く仕組みにしていて、レビュー、問い合わせ、Twitterのエゴサーチ内容などがすべて共有されています。そういったユーザーから届いたメッセージをメンバーとご飯を食べながら話したりします。

ユーザーからどう思われているかを共通認識できていないと、社内のすり合わせに結構エネルギーが必要になっちゃうんで。だからユーザーテストも僕一人で実施せずに、開発が一時間止まるとしても社員に同行してもらいます。そこでユーザーについて実感を持ってもらえると、開発の話も進めやすくなります。

ー多くのやるべき業務があると思うのですが、そこにとらわれずに社内で自由にアイデアを議論するためにやっていることなどはありますか。

加藤:まず、「ディスカッションはめちゃくちゃ大事だよ」と1on1で各メンバーにいつも伝えています。

最近良かったと思う取り組みはSlackに「#discussion」というチャネルを作って、プロダクトについて自由に話せる場を作ったことですね。だんだんチャネルが多くなってくると、それぞれのチャネルの内容に細分化されたアイディア等が多くなってしまい、ファンクション横断の大きな問題や施策の話題が減っていってしまうとう問題を感じて、このチャネルをつくりました。
ここではとくに制約を設けずに、ハードルをなるべく下げて誰もが気軽に発言できる場にしています。一番発言しているのは僕なんですけど(笑)

一週間に一時間行われるチームMTGにも、Slackのディスカッションチャネルが活きています。ここでアイデアも出して、それに対してMTG前までにSlack上で会話を続け、良さそうなテーマをチームMTGの後半40分程度を費やしてアイデアを揉みます。

たとえば、ディスカッションで意見を重ねる中で、「長いウェブページのスクショを何枚も撮るのって面倒くさいですよね」という話が出てきて。そこで、スクショが実際どれくらい撮られているのかと調べてみると、かなり多く撮られていることがわかりました。
これはどうにか解決できないものかと議論していく中で、アイデアが形になり、「ページ全体スクショ」機能としてリリースした事例もあります。

新しい機能を追加しても当たるもの、当たらないものもあります。そこは実験だと思っていて、できる限りの調査と議論をした上で、トライをして結果が「駄目だったら最悪消せばいい」という考えのもと、まずはたくさんの自由なアイデアが生まれる仕組みを作っています

原体験は、ユーザーファーストを徹底した競合のプロダクト

ー徹底してユーザーの目線を意識している加藤さんですが、そもそもユーザーファーストにこだわる理由、きっかけはどんなものでしたか。

加藤:実は僕はソニー時代にAppleに2回やられてるんですよ。一度目はウォークマンの担当時代にiPodにやられ、二度目はXperiaの担当時代にiPhoneにやられました。
それまでは、どこの会社も、ユーザーニーズとビジネスモデルのバランスをとってプロダクトを作っていました。
たとえばウォークマンでは「音楽著作権の適切な管理」というビジネス事情と、「どこでも音楽を持ち歩きたい」というユーザーニーズ。
スマートフォンでは、「通信キャリアから課せられた制約条件をしっかり満たした端末を開発する」というビジネス事情と、「どこでもインターネットを使いたい」というユーザーニーズがあり、どちらのビジネスでもそのバランスを取るのに苦慮していました。

そんな中Appleは完全に「ユーザーが求めている体験」に振り切って、ある意味ビジネス的な「大人の事情」はほとんど無視してプロダクトを作り、世界で最も偉大な会社を作り上げました。ユーザーファーストでプロダクトを作り、多くの熱狂したユーザーを味方につけ、ビジネス制約をも吹き飛ばしてしまうという離れ業をやってのけたわけです。

Amazonもそうですが、とち狂うほどにユーザーのことを考えられる、ある意味バランス感のない会社が今は支持される流れになっています。だから、自分が会社を起業するとしたら、変なバランス感は無しにして、完全にユーザーだけに振り切ったプロダクトをつくりたかったんです。

発見のために、心を無にしてユーザーの本音に耳を傾ける

ーユーザーファーストを実現する上で不可欠なユーザーテストですが、Smoozは具体的にどのように取り組んでいるのかを教えてください。

加藤:まずユーザーテストの重要なポイントとして、「心を無にして、売り込まないこと」を心がけています。売り込んじゃうと、ユーザーが遠慮して本音を語ってくれなくなるので。自分の思い込みをユーザーに押し付けないことが大切です。

内容は最初に協力者に普段の生活で時間とお金をかけていること、スマートフォンのホームスクリーンと使っているアプリなどを聞きます。それから、その人に近い設定で実際に使ってもらいます。

アプリの検索とダウンロード、実際に利用した感想を独り言で呟いてもらいます。それだけでも「スクショの意味がわかんない」「DL数は全然気にしない」といった意見が出て、たくさんの発見があります。無口な人にはこちらから「今何を考えていますか?」と聞いたりもしますね。

ー独自のナレッジを多く持つ加藤さんですが、ご自身の経験を踏まえ、これからCRMに取り組む人にアドバイスをお願いします。

加藤:CRMとは、結局はリアルな人付き合いと似ていると思っています。クラスの中での自分の位置づけ、相手からどう見られているか、この人とはこういう話題をいつ話したほうが良いなど、普段から考えますよね。

そういう「自分を俯瞰して行動する」ということを企業に置き換えるとCRMなのかと。俯瞰すると、施策も出てきやすいし効果も出やすいのかなと思います。それを見失ってしまうと、「数字を上げたいのでPUSH通知を打とう」「イベントを行った人にこの施策をとりあえず打つ」といった判断をしてしまい、サービスの価値が崩れ去ります。

Smoozで一番効いた施策は、実は「アプリをとにかく更新し続けたこと」かもしれません。ユーザーの声を聞いて、仮説を立てて、頑張る。その頑張りがリリースノートやアプリの実態としてユーザーに伝わって「頑張ってるな」「将来もっと良いアプリに成長しそう」という期待につながり、ファンになってくれる。きっとコアなファンのみなさんには「俺が育てたブラウザ」と思ってもらえているかと(笑)

今後も機能の改善を徹底しながら、さらにグローバル展開を目指す

ー最後に今後の展望、サービスの戦略をお聞きしたいです。

加藤:機械学習に力を入れていて、今後は機械学習によってコンテンツ推薦ができるようにしたいと思っています。

検索という行為はやっぱり面倒くさいと思うので、検索しないでも好きなコンテンツが降ってくる。そういう便利さが、Smoozの中心のバリューである「効率性」という価値をもっと高めてくれるかと思います。

それから、海外展開。日本ではある程度のユーザー数がついてきたので、2019年内で日本のブラッシュアップに一区切りをつけて、海外展開に取り組む予定です。

カスタマーサポートやレビューのコメントを見ていても、海外ユーザーからポジティブな反応を得ています。一方で、今後は海外での認知度をもっと上げていかないといけません。日本でSmoozをリリースした当時、ある程度の話題性が作れました。海外でも同様に、PRを絡めて話題性を作っていく必要はあると考えています。

そのためにも、アプリの価値をもう一段上に、新しい価値を付加できるプランを今練っているところです。

ー 加藤さん、インタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました!