2017年に大幅にリニューアルした「日本経済新聞 電子版アプリ」。以前までは外部リソースを活用してサービスを開発していたが、読者が直接触れるアプリサービスの開発を内製化する判断を下したのは2015年のこと。その中心にいたのが、アプリ開発のプロダクトマネージャーだった武市大志氏だ。

内製化を実現した開発・マーケティングチームはOKR(Objectives and Key Results:目標の設定・管理)を導入、そしてコンテンツ制作を担う編集局との連携を進めているという。内製化した開発・マーケティングチームをいかにしてまとめ、日経電子版は今後どこを目指しているのか。武市氏に話を聞いた。

開発を内製化し、「正しいサービス」を目指す

 

ー日本経済新聞社(以下、日経)に入社した背景をお聞かせください。

武市 大志氏(以下、敬称略):入社前はもともとウェブの受託開発を行っておりました。その中で、開発パートナーとして日経モバイルウェブの仕事をしていたんです。

当時は自社で情報サイトの運営もしていたのですが、その事業が本当に苦労していたんです。集客の大変さ、そしてゼロイチでブランドを作り上げることは本当に難易度が高いのだなと実感しました。その一方、日経はロイヤリティの高いユーザーが集まっており、すごくうらやましいなと感じました。また、日経で働いている人たちは本当に頭がよかった。そこで一緒に仕事してみたいなと思って、入社したという背景です。

 

―入社した後はどのような業務を担当したのでしょうか。

武市:エンジニアとしての入社でしたが、入社とともにサービス開発を内製化していくことになったことで、アプリ開発チームのプロジェクトマネジメントも行うようになりました。

―内製化のきっかけはどういった理由からだったのでしょうか。

武市:当時、伊藤直也さん(株式会社はてな・元CTO)に技術顧問で入っていただき、彼からの強い後押しがあったんです。新聞社が記事を外注しないように、コアとなるサービスは自分たちで開発すべきだとアドバイスをいただきました。アプリのようなユーザーから一番近い距離にあるものに関しては特にです。そうしてユーザーが一番使いやすいように設計された「正しいサービス」が出来上がっていき、結果としてアプリのアクティブユーザー数も増えていきました。

 

―アプリを内製化していく中で、どのようなKPIを追っていたのでしょうか。

武市:例えば「一人がどれくらいの記事を読んでくれたのか」「訪問頻度はどれくらいなのか」は常にチェックしていました。今年からはもっと事業的な、ビジネス的な指標を意識していく方針として、その意識づけとしてOKRを導入しました。記事をたくさん読んでもらうことが、「事業的な成果にどれくらい結びついているのか」をみんな考えていくような体制を目指しています。

 

「職能型」から「混成型」へ。OKRの導入とチームの変化

 

―2019年からOKRを導入したとのことでしたが、具体的な取り組みについて教えてください。

武市:いざビジネス的な指標を目指そうとしても、事業の全体像がなかなか意識できません。まずは事業目標を改めて全員に共有した上で、OKRを通じて自分のチームのやることが事業目標のどのあたりにどれぐらい貢献しているのかを可視化できるようにしました。

また、OKRの導入と同時に、一部のチームを「混成型」にしています。これまではアプリが得意なエンジニアが集まったチーム、サーバーサイドが得意なエンジニアが集まったチーム、フロントが強いエンジニアチームといったように、「職能型」でチームを分けていました。そうすることで「生産性」は確かに上がり、改善のスピードは速くなるのですが、事業としてグッとドライブさせるようなアイデアは生まれにくくなります。

まずは一部を、マーケターやデータアナリスト、エンジニアがいる「混成型」チームに置き換えました。「混成型」のチームにすることで、「生産性」よりも「創造性」の高い仕事ができるようになることを狙っています。

そしてそれぞれのチームと話し合い、「このチームは3ヶ月間この目標を追っていきましょう」というOKRの目標を設定し、達成のための権限と責任をPMが持つ、という体制にしました。。

 

―事業全体のOKRの目標をどのように管理されているのでしょうか。例えば、複数のチームでタスクの優先順位がぶつかってしまうことはないのでしょうか。

武市:チームのOKR目標は各チームのPM(プロダクトマネージャー)が管理し、それぞれの目標はしっかりツリー状にして、一番大きな事業目標に繋がるようにしています。チーム同士で施策がコンフリクトしそうな場合はPM同士の話し合いで解決するようにしています。

それでもまとまらない場合は、一階層上の目標を背負っているGPM(グループプロダクトマネージャー)が最後決めるようにしていますね。これはOKRの導入時に、最初に宣言しています。

―OKRを導入し、混成型のチームにしたことでどのような改善が見られていますか。

武市:事業全体の数字が上がっているのは間違いありませんね。

 

そもそもはメンバーが事業全体の数字を意識することが目的でしたが、狙い通りの結果になったと感じています。技術的にこういう機能を実装したい!、という思いだけではなく、事業的に見てもその機能がこんなメリットがあるのだ、と個々人のエンジニアが考えられるようになりましたね。結果、組織としても強くなっているのではないでしょうか。

 

また、個々人がそれぞれ温めていたいいアイデアが、3ヶ月というスパンのなかで「よしやろう!」と表に出てくることもあります。他にも、少人数のチームに分けたことで、個々人の才能を見いだせたことは大きな収穫です。例えば、PMはあくまで役割に過ぎないので、年次に関わらずアサインしています。2年目で若手のマーケターをPMにアサインし、かなりコアなところを担当してもらったのですが、しっかり結果を出しています。

 

「報道機関」としての役割を守りつつ、+αの付加価値を

―OKRの導入にあたって難しかったことはありますか。

武市:純粋に事業としてだけではなく、「報道機関」としての役割も考えていかねばならない点が難しいです。長年積み上げてきたブランドやメディアに対する読者からの信頼もあります。事業目標とそことどうやって整合性を取っていくかは常に考えています。

コンテンツを制作し、そこに対して責任を負っている編集局と密にコミュニケーションを取っていくことは2018年から本格的に始まっています。

その中で、報道に「+α」の付加価値をつけていきたいんです。ニュースの解説や裏話などから見えるもの、学べるものを、今の時代にふさわしい形でどのように伝えていくかに取り組んでいます。その一例が、「ストーリー」というコーナーです。

 

 

武市:一昔前ではこんなコンテンツはありえませんでした。最初から見せ方を考えて、「こんなコンテンツがいい」「こんな見せ方の記事で!」といった話を事業サイドから言えるということは、我々としてはとても画期的なことだったんです。

実際、このような連載を毎日クオリティ高く出し続けるというのは、かなり大変なんです。しっかり編集局から理解を得ないと実現が難しい。しかし、A/Bテストなどに基づいた数字を使ってロジックを持って説明すること、誰にでもできることじゃなく日経だからこそできることなんだという思いを共有することで、ちゃんと理解してもらえたし、むしろ情熱もって取り組んでくれています。

 

―編集サイドと事業サイドでうまくリレーションできるようになったターニングポイントはどこにあったのでしょうか。

武市:コンテンツのA/Bテストを実施したことがターニングポイントになりました。開発を内製し、システムやUI/UXは磨かれていきましたが、やはりサービスのコアはコンテンツにあると改めて思ったんです。そこでまず、Webやアプリに適したコンテンツはどのようなものだろうかと、見出しのA/Bテストなどをやるようになりました。

もう1つは、編集局から異動してきた当時の電子版のトップが「デジタルと編集はもっと一緒にならないとダメだ!」と宣言したことです。それを受けて、自分を含めたエンジニアが編集局の現場を体験し、編集局の人と積極的にコミュニケーションを取るようになりました。僕らは統計やマーケティングの数字からの意見を、編集局は報道機関として、ジャーナリズムの視点からの意見を交換するようになり、編集サイドと事業サイドですごくよい融合が始まったと実感しています。

 

―今後、日経電子版はどのように変化していくのでしょうか。

武市:長年、日本経済の発展に貢献していくために情報を発信してきた新聞社として、主にビジネスに関わる人たちの生活が豊かになるようなサービスにしていきたいです。今は日経新聞のニュースを配信するだけに見えてしまっているかもしれませんが、今後はよりビジネスマンのインフラになっていけたらいいなと思っています。

 

 

 

aCrew #2 for Media

大手メディア企業の新規事業責任者に、これからのメディアの在り方について聞く!

開催日時:6/18(火)18:30〜

イベントテーマ

今回のテーマは「大手メディア企業のZERO to ONE」です!

情報多寡の時代、著名な媒体であることの価値が下がってきている一方で、オフラインコミュニティの運営、クーポン施策、動画への活路など、大手メディア企業から従来のメディア運営を超えた新しいビジネスの取り組みが次々と始まっています。

そこで今回は、日経新聞朝日新聞の大手報道機関とスタートアップを代表するメディア企業Gunosy、そして急成長中のメディアプラットフォーム「note」を運営するピースオブケイク社の新規事業責任者をお招きし、大手メディアにおける新規事業の立ち上げ方や成功確度を上げる秘訣、主幹事業とのシナジーなどについて赤裸々に語ってもらいたいと思います。

メディア業界に在籍の方のみならず、これからメディア事業への参入を検討されている方や、新規事業のヒントを見つけたい方にとってもためになること間違いなしですので、ぜひご参加ください!

登壇者・予定テーマ

第一部

1. 株式会社Gunosy 真武氏
テーマ:オトクルの取り組みとGunosyのバーティカル戦略

2. 朝日新聞社 メディアラボ 深田さん
テーマ:朝日新聞メディアラボの取り組み
http://www.asahi.com/shimbun/medialab/

3. 日経新聞社 永吉さん
テーマ:会員コミュニティを育てるNsalonの取り組み
https://nsalon.note.mu/

参考記事: 「日経×note -「Nサロン」が3ヶ月で自走するコミュニティになるまでにやったこと

4. ピースオブケイク 水野さん
テーマ:noteの新しい取り組み

第二部

パネルディスカッション 登壇者4名 + モデレータ

 

↓ イベント詳細・申込みはこちらから ↓
https://repro.connpass.com/event/131865/

主催:Repro株式会社

開催日時:6/18(火)

開催場所:株式会社ピースオブケイク
東京都港区北青山3丁目1−番2号 青山セント・シオンビル4階

参加費:無料

 

【「これだけ覚えておけば恥ずかしくない」100語以上をイラストを交えて分かりやすく紹介!】

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