近年、クラウド上でITサービスを提供するSaaS企業の急成長ぶりは、海外だけでなく日本市場においても顕著です。

簡単な質問に回答するだけで確定申告書を自動で作成してくれる、クラウド型会計ソフト「freee」を提供するfreee株式会社もまた、日本を代表するSaaS企業です。

webだけでなく、アプリ版サービスも提供している同社では、従来のwebからの集客・利用だけでなく、最近はアプリユーザーの数が増えてきているとのこと。

果たして、freeeアプリはいかにしてユーザーの認知を獲得し、集客・定着を行なっているのでしょうか。

 

今回、Growth Hack Journalのマーケターインタビュー企画「Sailing Report」では、freee株式会社 個人事業部 部長の藤井 浩平氏に「グロースハックの秘訣」についてたっぷりと伺ってきました。

プロフィール

藤井 浩平

freee株式会社 個人事業部 部長

新卒で楽天株式会社にてECコンサルタントとして300店舗以上の販売戦略の立案・提案に関わったのち、2016年夏にfreee株式会社に参画。現在は個人事業部の責任者として、会計freeeのweb/アプリ領域の事業戦略全般を担当している。

 

アプリ版を利用するユーザーが増えてきた

— 藤井さんのチームでは普段、主にどのようなことをされているのでしょうか。

藤井 浩平氏(以下、藤井):私のチームでは会計ソフト『freee』の中でも、主に個人事業主向けサービスの領域を担当しており、私はそのチームの責任者を担当しています。

サービスにはweb版とアプリ版の2種類があるのですが、最近では、どのような工夫をしたらアプリ版をより快適にユーザー様に使っていただけるのかの戦略を考えながら取り組んでいます。

 

— web版とアプリ版の流入比率で言うと、現在はどちらの方が多いのでしょうか。

藤井:全体の利用者数ではweb版の方が多いですが、最近はアプリからの流入数の伸びが好調ですね。

確定申告の時期などは、web版とアプリ版を併用する方も多いようです。

 

— 最近ではアプリ版を利用する人が増えてきたとのことですが、その理由は何だと思われますか。

藤井:アプリに対する世間の見え方が少しずつ変わってきたから、ではないでしょうか。

例えば、以前は家計簿を付ける時、ほとんどの方がノートにレシートを貼っていたと思います。

しかし、徐々にエクセルなどで管理するのが主流となり、今ではスマホアプリで管理するのが当たり前になってきています。

 

このように、テクノロジーの発展と浸透によって多くの個人事業主の方がスマホアプリでの会計管理をする時代になってきたのだと思います。

 

一番の課題はアプリを使い始めてもらえるかどうか

 

— アプリのマーケティングの全体戦略の中で、藤井さんのチームが特に注力しているのはどういった部分でしょうか。

藤井:いま全体の中で最も課題となっているのが、「アプリをダウンロードした後、使ってみたいと思ってもらえるかどうか」ですね。

ダウンロード数は広告費をかければ、ある程度予測がつきます。しかし実際に使ってもらうとなると、難しさが出てきます。

 

— せっかくダウンロードまでしたのに、アプリを利用しない人がいるということですか。

藤井:そうです。6~7割のユーザーの方が、興味は持ったけど「会計」というハードルの高さに離脱してしまうのが、1~2年前の大きな課題でした。

 

— ユーザー離脱防止のためにどのような改善をしたのでしょうか。

藤井:「チュートリアル」を導入してからユーザーの反応が大きく変わりましたね。

チュートリアルを導入する前までは、ホーム画面に分かりやすく会計計算ボタンが付いているし、説明をしなくてもユーザーはすぐに使い方が分かるだろうと考えて、当時はそのボタンを押した先をゴリゴリ開発していました。

 

しかし、「そもそも一番重要な会計ボタンが押されていない」という事実がユーザーのフィードバックの結果判明してから、サービスの使い方を知ってもらうチュートリアルの導入を決定。結果的に、ダウンロード後約7割のユーザーに機能を使っていただけるようになりました。

 

チュートリアル導入で登録率20%アップ

— チュートリアルの中身についてもう少し詳しく教えてください。

藤井:先ほどの「会計ボタンが押されない問題」のほかにもう一つ課題がありました。

freeeのアプリをダウンロードすると「新規登録」と「ログイン」ボタンが表示されるのですが、そのどちらも押さない人たちが、全体の10~20%ほどいました。

おそらくメールアドレスを入れるのが面倒だったり、使い方自体がよく分からないので面倒になったのが理由ではないかと仮説を立てました。

 

そこでユーザーに登録してもらうために私たちは、アプリの使い方を説明するチュートリアル動画を作りました。

動画自体は15秒程度のものですが、サービスでできることを動画で簡潔に紹介することで、「求めている価値がここにある」とユーザーに理解してもらった結果、登録率は20%アップし、その後の利用率にも良い影響がありました。

 

会計というユーザーの抵抗が生まれやすい領域において、サービス内容を理解してもらうことと、サービスを使用する上での心理的障壁をなくすことが重要だと感じた出来事でした。

ユーザーの生の声を拾うには、地道なインタビューも必要

 

— サービス改善の根拠としてユーザーからの声があったかと思います。どのようにして改善要望を拾い上げていましたか。

藤井:毎月ユーザーの方にインタビューをさせていただいています。社内メールで協力者を募って、UXチームと一緒に生の声を拾いにいっています。

課題のポイントはどのようなところなのか、使いやすくするための工夫はどうするかを把握するために、結構泥臭くやっています(笑)

 

— よく、「ユーザーが本当のことを言ってくれるのか分からないから、ユーザーインタビューは難しい」という意見があると思うのですが、そのあたりはどのように工夫されていますか。

藤井:基本的に性善説でインタビューに臨んでいますが、内容と聞き方にはかなり工夫しています。

例えば、ユーザー側もテストに協力的であったとしても、身構えたり緊張してしまう雰囲気を作ってしまうと、とっさに思っていることと違うことを話してしまうことが結構あります。

「あの機能どうでした?」と聞くと、「良かったです。(終)」みたいな。(笑)

 

ですから、なるべく友達の家に来てちょっと話す、くらいの温度感でやろうと気をつけていますね。

その代わり、ユーザーへの問いかけの設計には事前に打ち合わせをしたりして、ユーザーの本音を引き出すために、入念に準備をしています。

 

手作りサービス紹介動画でアプリマーケティングの課題を解決

— アプリの集客やグロースをしていく中で、感じている課題や壁などはありますか。

藤井:幅広いユーザーが対象となるスマホゲームなどと異なり、会計アプリはユーザー属性が限られているので、どのようにリーチしていくべきかを設計するのがとても難しいと常々感じています。

特にアプリはwebよりも難易度は高いと思っていて、オウンドメディアやSEOでの集客も容易ではないので、そもそも「ストアに来るか、来ないか」の話なんですよね。

 

またストアで「請求書」や「確定申告」で調べても同じストア画面しか出せないし、情報の出し分けが出来ないという制約がかなり大きいですね。

しかも、個人事業主を特定する要素や共通項がそもそも少ないので、マーケティング面ではかなり骨が折れます。

 

— そうした課題に対して、どのように対処されていますか。

藤井:いろいろ試行錯誤する中で最終的にたどり着いたのは、アプリ体験の中で、一番サービス内容が伝わりそうな場面を自分で画面録画して動画にする、というアプローチ方法でした。

それが今までの施策の中で一番ユーザーに響きましたね。

 

— 藤井さんご自身で作られた動画ですか。

藤井:はい。MacBookにスマホを繋いで画面録画を押して、アプリを操作しているところをiMovieで編集した完全オリジナルです。

30分ほどで作った自前動画ですが、結果的に200万円で依頼したプロの動画や有名俳優などを用いたプロモーション動画よりも、この動画の反響のほうがはるかに良かったんです。(笑)

 

もちろんブランディング的な観点やイメージを大切にする場面もあるのですが、ユーザー側にとって、いかに自分が使っているイメージができるのかが重要だなと、その経験を通じて学びました。

ユーザーとして自分もそれを本当に使いたいと思うか?を自問自答し続ける

— つまりユーザーにどれだけ近づいて、マーケティング施策に落とし込めるかということですね。

藤井:そうですね。もし自分がユーザーだったら、それを見て本当にやりたいと思うのか?伝わるのか?といったことを常に自問自答しつづけることが、一番大切なことなのかなと思います。

 

— 藤井さんがアプリをグロースさせていく上で、いつも気を付けていることはありますか。

藤井:ずっと気を付けているのは、今言ったように、自分がユーザーだったら本当にそれを使いたいかどうか、ということが一番ですね。

その次に、数字が上がるか、売上が上がるかです。

 

でも売上は、ユーザーに気に入られて後から跳ね返ってくるものだと思うので、特に気を付けていることは前者ですね。

ですから、何度も自分でアプリをインストール・アンインストールを繰り返して、ユーザー体験に違和感がないか確認してみたり、社内の人に意見を聞いてみたりしていますね。

 

— 藤井さんは自社アプリを理解するために自分でアプリ開発もされると伺っています。ですがそこまでできないアプリマーケターは明日から何をしていけば良いのでしょうか。

藤井:自分がいつも伝えるのは、まずユーザーファーストであれば、必要なことは後から全部付いてくるということです。

あとは最悪、課題さえ見えていれば、その施策が出来るか出来ないかはチームメンバーで判断すれば良いと思います。

 

ですからユーザーにとっての課題やニーズを理解できる感覚を身につけることが、マーケターには大切だと思います。

 

— 知識だけでなく、ユーザーとしての自分の感覚も大事だということですね。

藤井:そうですね。マーケティング感覚を磨くための練習方法としては、アプリを100個くらいダウンロードして、良い体験とは何だろうと一人で考えるのはおすすめです。

目標はスマホで確定申告を完全に完結させること

 

— 今後、freeeアプリの展望としては、どのようなことを考えられていますか。

藤井:今の目標は、スマホで確定申告をすべて完結させることですね。

現状は、パソコンでは確定申告を終わらせることができますが、スマホでも当たり前に会計作業を終わらせられるような世界を実現したいです。

そのために気軽に家計簿を付けるような感覚で、freeeアプリをご活用いただけるような心地よいユーザー体験を、これからも創っていければと思います。

 

— 藤井さん、本日は、ありがとうございました!

 

さいごに

 

「会計」という多くの人にとって簡単ではない領域をわかりやすく、ラクなものにするためのサービス、クラウド会計ソフト freee

 

そのグロースの秘訣は「徹底的なユーザー視点の追究」にありました。

自らアプリのダウンロードとアンインストールを何回も繰り返してユーザー目線でサービスを捉えるための努力、定期的なユーザーインタビューによるフィードバック、ユーザーニーズに応えるためのセルフ動画制作…

 

今回お話いただいた内容は数あるマーケティング施策のうちのほんの一部ではありますが、全編を通して、「ユーザーファーストであれば、売上は後でついてくる」という視点がfreeeアプリの成長に繋がっているのだと実感するインタビューでした。

 

今後もGrowth Hack Journalでは、マーケティングやアプリ事業に関わる人たちの背中を押すコンテンツを随時配信していきますので、お見逃しなく。

 

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【執筆】花岡 郁 【編集・撮影】Growth Hack Journal編集部

 

 

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