今回のグロースハックジャーナルは、500Startups、Y-Combinator、Disney Acceleratorに立て続けに参加し、世界で初めてグロースハックに焦点を当てたイベント「Growthathon(グローサソン)」の主催者でもあるKen Zi Wang氏から伺った「プロダクトの成長に必要なこと」についてです。 

 

kenzi office

Traction社CEO Ken Zi Wang氏

 

Growth Hack Journal編集部(以下GHJ): Ken Ziさん今回はインタビューお受けくださりありがとうございます。まずはご自身の経歴から教えてください。

 

Ken Zi:大学卒業後にホームデコレーション用品のマーケットプレイスを作って起業しバイアウトしました。今でいうEtsy 1)Etsy:ハンドメイドやビンテージの雑貨などを扱うマーケットプレイス https://www.etsy.com/のようなサービスでしたね。そのあとに500Startups、Y-Combinator、Disney Acceleratorに参加しました。そこで現在のサービスの原型となる「マーケターと企業をつなぐマーケットプレイス」のアイデアをブラッシュアップさせてTractionという会社を創業し、現在はそこのCEOをしています。

 

グロースハックにおいて一番重要なのはユーザーの定着プロセス

 

GHJ: 早速ですが本題に入ります。プロダクトを成長させるために大切なことは何だとお考えですか。

 

Ken Zi: アクティベーション、つまりはじめてプロダクトを使ったユーザーに価値を感じてもらい、定着させる初回利用時の体験が大切です。なぜならば初回起動時にユーザーが価値を感じてくれなければ、ユーザー獲得の施策を行い新規ユーザを獲得してもすぐにプロダクトは使われなくなってしまい、ユーザが増えていかないからです。

 

GHJ: ではアクティベーションを改善するためにはどうしたらいいでしょうか。

 

Ken Zi: アクティベーションはプロダクトによって最適解が異なるため、どんなプロダクトにも使える具体的な方法というのはありません。プロダクトがユーザーに価値を与えるものになっているか仮説検証と検証結果に基づいたプロダクトの改善を繰り返していくしかないと思います。

 

GHJ: アクティベーションを直接改善しようとするのではなく、プロダクト自体の価値の向上を図ることで間接的にアクティベーションを改善していくということですね。

 

Ken Zi: その通りです。私はユーザーが価値を感じ、継続して使うようになり、ユーザが増加するようになったプロダクトの状態のことを「トラクション」と呼んでいます。プロダクトを成功させるためには、アプリ価値の向上を通じて、トラクションにしていかなくてはいけません。

 

継続的なプロダクト改善だけがトラクションにつながる

 

GHJ: ではプロダクトをトラクションにするにはどのようなことを行えばよいのでしょうか。

 

Ken Zi: 多くの人が新規ユーザー獲得施策、例えば良くあるPRや広告等の実施とその効果の改善のことがグロースハックだと思い、そればかりを行いがちです。確かにそれも重要ですが、それだけでは獲得したユーザーが十分に定着しないためトラクションにはなりません。トラクションを実現するには、プロダクトをユーザーにとって価値のある魅力的なものにし、新規ユーザをプロダクトに定着させる必要があります。そのためには、新規ユーザ獲得施策とプロダクト開発の両方を継続的に行っていくことが必要です。

 

GHJ: なるほど。Ken Ziさんが考える「トラクション」を実現しているプロダクトはありますか?

 

Ken Zi: SlackやIntercomは素晴らしい例だと思います。彼らは初期のMVPでユーザーが使うに値する価値を見つけ、継続的に使ってもらえるプロダクト作りをしていると思います。

 

参考記事:サービスに個性を持たせよう!Slackの遊び心あるグロースハックとは?

 

グロースチームは、様々なスキルセットのメンバーが協力してユーザ定着を図る組織

 

GHJ:数年前から注目されてきたグロースハックという取り組みも今では随分浸透してきたように思います。シリコンバレーで感じるグロースハックのトレンドの変化はありますか。

 

Ken Zi: 数年前に比べてグロースチームが大きくなり、エンジニア以外もチームに参加するようになっています。昔はグロースチームは2、3人という規模が多かったと思いますが、今や企業にとって最もプライオリティの高い組織の一つに位置付けられ、エンジニアチームやセールスチームと同格の独立した組織として設けられています。規模が大きくなるにつれてエンジニア以外の人間、具体的にはマーケターなどもグロースチームに所属するようになりました。

 

GHJ: マーケターなどもチームの一員になっているとは意外です。非エンジニアもグロースチームに所属する必要があるのはなぜでしょうか。

 

Ken Zi: プロダクトを持続的に成長させるためには製品の改善を担当するエンジニアとユーザー獲得を担当するマーケターが同じチームに所属し、同じKPIを共有し、連携しながら動くことが重要だからだと思います。

 

GHJ: なるほど。グロースチームとして働くうえで重要なことは何ですか。

 

Ken Zi: 必ず解析ツールを使ってプロダクトへのユーザ定着状況を分析し、その結果に基づいて改善のアプローチを決めることです。

 

例えば、グロースチームのマーケターは非エンジニアであるという点では旧来のマーケターと同じですが、プロダクトを改善する際のアプローチとマインドセットが全く異なります。

 

私の見解では、旧来のマーケターは自社のプロダクトについて伝統的なアプローチで改善を試みる職業です。まず製品のポジショニングを分析し、コーポレートメッセージやサイトのリニューアル、イベント開催などによって自社プロダクトのブランディングにより、ユーザ獲得にコミットします。

 

対してグロースチームのマーケターは自社のプロダクトについて解析ツールの分析結果からアプローチを決め、新規ユーザの獲得だけではなく、ユーザーの定着までを意識したマーケティング活動をします。実行する施策が同じになることはあっても、分析結果を使ってアプローチを決めることやユーザの定着を意識するという点で旧来のマーケターと異なります。

 

Tractionについて

 

GHJ: 最後にKen Ziさんの会社が現在提供しているTractionというサービスについて教えてください。

 

Ken Zi: Tractionはプロダクトの種類とキャンペーン予算に応じて最適なマーケティングチャネルを選択でき、各チャネルで経験豊富なマーケターがキャンペーン施策を実行してくれるサービスです。

 

GHJ:  マーケター人材のマーケットプレイスということですね。企業がTractionを利用するメリットはなんでしょうか。

 

Ken Zi:  企業はTractionを利用することで予算に応じた最適なマーケティングチャネルがわかり、プロフェッショナルによる質の高いマーケティング施策を行うことができることが一番のメリットだと思います。

 

traction

Traction社のWebサイト(http://traction.co/)。キャンペーンの予算と製品の種類に応じて

最適なマーケティング施策を提案してくれる

インタビューを終えて

 

インタビュー中に繰り返し強調されていたのはプロダクトを「トラクション」にするためには継続的な改善が必要だということです。短期的なユーザー増加施策を実行するだけではなく、プロダクトをユーザーにとって価値のあるものにし続けることが重要です。

また、グロースチームをセールスチームやエンジニアチームと同格と考え専属のチームとして設けるのが一般的になってきているという話も興味深いものでした。日本でもVASILYfreeeなどの会社がグロースチームを設け成果を挙げているといった事例は見られますが、アメリカと比べるとまだそういった組織作りができている企業は少ないように思います。獲得したユーザーをきちんと定着させ、長期的な成長を実現するプロダクトにするためにはエンジニアとマーケターがグロースチームという一つの組織で連携しながら動くことが重要と言えるでしょう。

 

海外グロースハッカーへのインタビュー記事は今後も不定期で公開していきますのでお楽しみに!

注釈   [ + ]

1.Etsy:ハンドメイドやビンテージの雑貨などを扱うマーケットプレイス https://www.etsy.com/