昨日深夜(米国時間6月3日)、Appleが主催する毎年恒例の開発者向け発表会、「WWDC 2019」が開催されました。iTunesの廃止や、iPad用の独自OS、そして新型Mac Proの発表などが話題となっています。

その中でも、アプリ事業者にとって一番重要なのはやはりiOS 13の発表でしょう。ダークモードの追加や「カメラ」などデフォルトアプリの機能向上に注目が集まっていますが、まだそれほど報じられていない重要な変更点もありました。

本記事ではWWDC 2019の発表の中から、アプリ開発者・マーケターの目から見て重要なトピックを5つチョイスして詳しくご紹介します。

 

① Apple Watch専用のApp Storeが開始される。

 一番重要なニュースは、Apple Watch専用のApp Storeの登場でしょう。今後ユーザーはiPhoneを経由することなく、Apple Watchから直接アプリを検索して購入、ダウンロードすることが可能になります。

また、Apple Watch専用のアプリを公開することも可能になります。WWDCの会場では、Watch OS独自のオーディオストリーミングAPIを用いたアプリ、『MLB radio app』が紹介されていました。これはApple Watch上でメジャーリーグの試合を生中継で聴くことができる専用アプリです。

下画像のように、Watch用App StoreにはiPhone/iPad用のストアと同様に、スクリーンショットやアプリの説明文、評価が表示されるようです。Apple Watch向けのアプリを公開しているディベロッパーは、今後Apple Watchに向けてもコンバージョン率向上のためストア最適化を行う必要があるといえるでしょう。

 

② 審査ガイドラインが変更に。子供向けアプリに広告や分析SDKを組み込めなくなった。

WWDCのセッション中には告知されませんでしたが、AppleはこのタイミングでApp Storeの審査ガイドラインを更新しました。変更されたガイドラインで最も注目すべきなのは、「子供向け」カテゴリのアプリに関して、「サードパーティの広告・分析ソフトウェアを組み込んではならない」という規定がなされたことです。この変更は新たに公開するアプリに適用され、公開済みのアプリも2019年9月3日までにガイドラインに従う必要があります。

 

 

このレギュレーションの対象となるのは、年齢制限指定が「4+」かつ管理画面で「子供向けに制作」(5歳以下・6-8歳・9-11歳)にチェックしたアプリのみです。「子供向け」カテゴリに入っていないアプリに関してはこれまで通り制限はないと見られています。

 

 

ウォール・ストリート・ジャーナルの調査によれば、「今日のApp」などでフィーチャーされたApp Storeの80アプリのうち、実に79ものアプリがユーザーのデータをトラッキングしており、平均4つのデータ分析ソフトウェアを組み込んでいたとのことです。

こうした状況に対応する形で、Appleは立て続けにユーザーデータ保護の方針を打ち出す発表を行なっており、今回のガイドライン変更もその流れに沿うものだといえるでしょう。ゲームのサブスクリプションサービスApple Arcadeの開始など、企業全体として「子供」が今後のターゲットの一つであることは明らかで、子供向けアプリを嚆矢に今回の規定が設けられたのも必然かもしれません。

変更されたガイドラインの原文は公式発表(英語)をご覧下さい。

 

③ 新フレームワークSwift UIによりアプリUIの作成が容易に。

アプリ開発者向けの新たなフレームワーク「Swift UI」の発表もありました。2014年にSwift言語が導入されて以来、アプリのUIを作るフレームワークは時ずっと「UIKit」のままでしたが、今回は初めての大幅なアップデートとなります。

大きな更新点は、簡単なコードを書くだけであらゆるiOS端末のUIを作れるようになったことです。例えば、画像左側の短いコードを記述するだけで、右側のような整ったリストUIを作成することができます。Googleが開発したマルチプラットフォームフレームワーク、Flutterに近くなったという意見もあります。

Swift時代では、Tableviewという枠の中に一つ一つパーツ(Cell)を組み込むことによって作っていくイメージでしたが、Swift UIによって今後その作業は大幅に短縮されます。

開発ツールのXcodeもパワーアップし、コードを変更すると、その結果がリアルタイムで右側のプレビュー画面に反映されるようになりました。画面上だけではなく、実機を接続しながら変更をその都度確認することもできます。

 

英語ですが、すでに公式のチュートリアルが公開されており、操作感が分かりやすいと評判になっています。

 

④ 新ログインシステム「Sign in with Apple」の追加。ログインが必要なアプリには今後導入が義務化されるかも?

WWDC 2019では、個人情報保護のための新ログインシステムSign in with Apple」の発表もありました。Appleは上述した審査ガイドラインの変更に加え、さらにプライバシー保護のための施策を発表したのです。

 

これは、サードパーティーのアプリに「Apple ID」を使ってログインすることを可能にするものです。これまではFacebookやGoogleの既存アカウントを用いたシングルサインオン(SSO)による認証方法が主流でしたが、個人情報がアプリ側に共有されてしまうというデメリットがありました。

Sign in with Appleは顔認証や指紋認証に対応し、パスワードなどの入力すら必要がありません。これまでのようにメールアドレスを使ってログインすることもできますが、実際のアドレスではなくAppleがランダムに生成した使い捨てアドレスが用意されます。

アプリ側がユーザーにメールを送りたい場合も、ランダム生成アドレスから実際のアドレスに転送されるので、絶対に個人情報が伝わることがないという仕組みです。

 

この機能は今夏にベータ版としてリリースされ、今年後半には、GoogleやFacebookなどサードパーティログインを実装しているアプリに対して、Sign in with Appleを選択肢として実装することが義務付けられる告知されています。

しかも、上画像のようなSign in with Appleボタンを、GoogleやFacebookのログインボタンよりも上に配置するようにとの指針ガイドラインで示されています。このことからも、ユーザーデータ保護重視のログインシステムを浸透させようとするAppleの意気込みが感じられるでしょう。

 

⑤ 位置情報の利用許可オプションに、「『一度だけ』許可を与える」が追加。

プライバシーの話題と関連して、ユーザーに対して位置情報提供の選択肢がもう一つ与えられたのも変更点として挙げられます。これまでは、各アプリに対して「許可しない」「このAppの使用中のみ許可」「常に許可」の3通りの選択しかできませんでしたが、iOS 13から「一度だけ許可する」が追加されます。すなわち、アプリがユーザーの位置情報を必要とする時に、その都度ユーザーに許可を求めるようにするということです。

 

小さな変更点ではありますが、常に自分の位置情報を提供することに抵抗を感じるユーザーにとっては、よりアプリの機能を利用しやすくなったといえるでしょう。一方、「常に許可」を選択するユーザーは減少するはずなので、現在位置に基づきターゲティングする広告は配信しづらくなることが予測されます。

 

⑥ iPad用アプリと同一のコードからMac用アプリを作成できる「Project Catalyst」を発表。

 

 

Project Catalystとは、iPad用アプリと全く同じコードを用いて、Mac OS用アプリがビルドできるようになる機能です。iOS 13と同じく今秋リリース予定のMac OS Catalinaから実装される予定で、現在ベータ版が公開されているXcode 11から利用できるようになります。

全てのiPad用アプリが簡単にMac OS用アプリに変換できるわけではなく、もちろんリアカメラやAR機能はMac用アプリでは使うことができませんし、マルチタスク機能やドラッグ&ドロップ、キーボードショートカットに対応したアプリをベースにすることが推薦されています。

公式の開発ガイドがすでにリリースされていますので、詳しくはこちらをご覧下さい。

 

⑦ ストア周りも変更。チャーンユーザーの実数が分かるように。一方ユーザーはアプリを「アップデート」しづらくなるかも。

WWDCのセッションでは詳しく触れられませんでしが、iOS 13以降、App Storeの仕様にも変更があるようです。

まず、「アップデート」タブがストア下部に表示されなくなり、ユーザーがアプリの更新情報を目にする機会が減ってしまうことです。「アップデート」タブがあった場所は「(Apple )Arcade」に代わり、利用可能なアップデートはアカウント情報のページに移動します。

 

 

さらに、利用可能なアップデートの一覧からワンタップでアプリの削除ができるようにもなります。ユーザーにとってはアンインストールをするハードルが下がったといえるでしょう。

 

それに加え、iOSアプリの管理ツールApp Store Connectでは新たにアプリの「削除」数を閲覧することもできるようになりました。「オプトイン」「iOS 12.3」以上のデータのみという制約はあるものの、チャーンユーザー数を把握し、リテンションの推移を日別で追うことができるようになったことの意味は大きいでしょう。

 

 

⑧ Wi-FiなしでDLできる上限が150MB⇨200MBに!同時にアプリファイルの容量削減も。

iOSアプリではこれまで、150MB以上のアプリをモバイル回線でDLしようとすると、以下のような画面が表示され、Wi-Fiに接続するまでDLすることができませんでした。この上限が200MBに拡張されるとのことです。

 

また、iOS 13以降アプリファイルのパッケージング方法が変更になり、ファイル容量が以前の50%、アップデート容量が40%となる予測も発表されました。アプリサイズとDL率には明確な相関があるため、多くのアプリにとってこの容量削減はポジティブな効果を与えるでしょう。特に、アプリサイズが大きい傾向にあるゲームアプリにとっては大きな変化かもしれません。

 

以上、発表のポイントを8点にまとめてご紹介しました。アプリ事業者目線で今回のWWDC 2019を見てみると、非常に「プライバシー重視」「ゲーム重視」というAppleの方針が色濃く表れた発表だったといえるでしょう。

今秋登場の「iOS 13」はすでに開発者向けに公開されています。その使用レポートもGrowth Hack Journalで今後公開する予定ですので、ご期待下さい。